画像引用元:http://www.aptinet.jp/Detail_display_00000048.html
あなたは、恐山のイタコの存在を知っていますか?
イタコといえば「降霊術」を思い浮かべる人が多いかもしれませんね。
実際、亡くなった人の口寄せをしてほしい人が、大祭の度に、イタコの元へ列をなして押し寄せます。
気になるのは、イタコは本当に降霊ができるのか、という点ですよね?
イタコになる条件には「霊能力があること」というのがあるそうですが、果たしてイタコは本当に死者のメッセージを受け取っているのでしょうか?
実際に行ったことのある体験談を見てみると、その信憑性には微妙な部分も・・・。賛否両論あります。
しかし、イタコの女性たちは厳しい修行を積み、シャーマニズムに関しての勉強もしています。
伝統的なイタコの存在として、本物であることに間違いはありません。
ただし、大切な人を亡くした人の心の痛手を癒すカウンセリングの側面も強く、本当に死者の言葉を伝えられているかといった点では疑問も残ります。
もちろん、口寄せをしてもらうイタコの能力に左右される側面が強いため、そもそも「イタコは◯◯だ」と固定化することは難しいのかもしません。
とはいえ、今回は体験談もご紹介しながら、イタコの存在について検証してみたいと思います。
イタコとは?
イタコは霊を降ろして口寄せをすることによって、霊と相談者を媒介する霊媒を生業(なりわい)とする女性のことをいいます。
日本古来よりシャーマンと崇められ、人々を癒してきた伝統的な職業です。
シャーマンといえば、沖縄や奄美地方の「ユタ」を思い浮かべる人もいるかもしれません。
その存在意義に大きな違いは無いので、沖縄であればユタ、東北であればイタコ、と考えていいでしょう。
イタコという呼び名の語源には諸説あります。アイヌ語の「itak(イタック)=神様の思し召し」という意味からきている説、「斎く(いつく)⇒イチコ⇒イタコ」と変化したという説などがあります。
かつて東北地方では、地区ごとにイタコが1人はいて、地域の人々の相談に乗っていたそうです。呼び名も地方によって若干異なり、北東北地方では「イタコ」と呼ばれていますが、南東北地方では「オガミサマ」と呼ばれていたり、会津地方では「ミコサマ」、山形県では「オナカマ」と呼ばれていたりします。
このように東北地方で親しまれているイタコですが、その存在はめっきり減ってしまい、その存在は今や数えるほどだそうです。
それでも青森県にある恐山では、いまなおイタコに口寄せをしてほしいと願う人々が、恐山大祭(例大祭)には行列をなしてやってきます。なかには朝から11時間並んでも間に合わず、口寄せしてもらえなかったという人もいるほどです。
そこまでしてイタコにしてほしい口寄せとは、一体どんなものなのでしょうか?
体験談を交えて、以下でご紹介していきますね。
イタコの口寄せ体験談
イタコが行う「口寄せ」とは、死者の霊だけでなく神や仏、生霊を降霊して自分に憑依させ、そのメッセージを相談者に伝える方法のことをいいます。
降ろす霊の種類によって、口寄せにも種類が3つあります。
- 神様や守護霊さまなどの霊格の高い霊を降霊することを「神口(かみくち)」
- 四十九日を過ぎ成仏した死者の霊を降霊することを「仏口(ほとけくち)」
- 生きている人間の生霊を降霊することを「生口(いきくち)」
鎌倉時代の武将である平将門は、重要な政治的判断を下す際にはイタコに口寄せを依頼し、過去の権力者からのアドバイスを求めたとの歴史的記述も残されています。
イタコによっては、口寄せの際に唄を唄って霊を憑依させたり、数珠や太鼓、琴などの楽器を用いて霊媒を行うこともあるようです。
それでは実際に、恐山でイタコの口寄せを受けた人の体験談をご紹介しましょう。
1.亡き父の口寄せを求めて
都内に住む女性Aさんは仕事が忙しく、3年前、突然心臓発作を起こして亡くなった父の死に目に遭えなかったことがずっと心残りでした。
ある日、テレビで特集されていたイタコの口寄せを見て、有給休暇を取って恐山に行くことを決めました。
最後に父に会ったのはいつのことだったか・・・実家からの帰り際、心配する父を軽くあしらってしまったことに後悔していました。
また、父のことを大切に想っていることが伝わっているか、生前、花嫁姿を見せることができなかったけれど、今は結婚して人生の伴侶を得ていることなど、伝えたいこと、確認したいことがたくさんあったのです。
東京から6時間かけて着いた恐山。イタコのテントが出るのは、夏の例大祭(7月21日~24日)と秋詣り(10月上旬)の年2回だけ。
Aさんは大行列を覚悟して行きましたが、意外にも閑散としていたのです。
あとから聞くと、この日は例大祭2日目にあたる7月21日であったため、人の足が少なかったのだとか。
3日目と最終日は噂どおりの大行列となるそうなので、2日目は穴場なのかもしれません。
さて、イタコのテントはというと、かつて軒を連ねたという活気からは寂しい感じもする3つだけでした。
Aさんは並ぶことなく、ふたつめのテントへ入りました。
そこにいたのは、70代と思しきイタコさんでした。「イタラカ」という普通の数珠の10倍ほどの大きさの数珠が握られています。
誰を降ろすかと命日を聞かれ答えると、イタコさんは呪文のようなものを唱え始めました。
しばらくすると呪文は終わったようで、静かに話し始めました。Aさんのお父さんが降りてきたようです。
しかしその言葉は津軽弁がきつく、Aさんはイタコさんが何を言っているのか残念ながら全く理解ができませんでした。
Aさんのお父さんは生粋の江戸っ子であり、津軽弁はもちろん話せません。
口寄せとは普通、死者の声色や話し方が出るものだと思っていたAさんは少し驚きましたが、そのイタコさん自身の言葉を媒介して伝えているのだと思えば納得できました。
津軽弁でなかなか意味が拾えなかったAさんですが、お父さんがAさんの身を案じていることや健康に気をつけてほしいと言っていることはわかりました。
イタコさんは時間にして5分くらい喋り続けたあと、最後にまた呪文を唱えて口寄せは終わりました。
津軽弁が理解できなかったのが心残りだそうですが、もし次に行く機会があれば青森出身の人についてきてもらおうと思ったそうです。
2.朝7時に並んでも間に合わなかった!?
スピリチュアル好き自営業の男性Bさんは、イタコの噂を聞き、ある日、思い立って恐山へ行くことにしました。
とくに降霊してほしい人はいませんでしたが、今後の事業展開について聞いてみたいと思っていたそうです。
恐山の最寄り駅である「下北駅」の近くに宿を取り、当日は始発のバスで向かいましたが、着いた頃にはすでに長蛇の列で人が溢れ返っていました。
朝7時に着いたにも関わらず、すでに100人近くの人が並んでいました。それでいてイタコのテントは2つだけ。
朝イチで行けばお昼には終わるだろう、そしたらランチはどこで食べよう・・・そう考えていたBさんは面くらいました。
イタコの口寄せにかかる時間は、ひとり降ろすのに15分くらいだと聞いていたので、それを2人で100人さばくとしたら・・・単純計算で750分。12時間30分もかかります。
しかも、口寄せはひとりだけ降ろすとは限らず、ふたり、3人と降ろしてもらうこともできるそう。
複数人を降ろしたい相談者がいれば、その人だけで1時間かかってしまうこともあるかもしれません。
不安になりつつもここまできたら並ぶしかないので、Bさんは覚悟を決めて最後尾の列に並びました。
しかし、待てど暮らせど一向に列は進みません。
Bさんが恐山に行ったのは夏の例大祭だったので、かなりの炎天下でした。
周りを見回すと日傘や帽子、簡易テントを持ってきている準備万端な人ばかりで自分の準備不足を後悔したそうです。
聞けば早く列に並んでいる人は、恐山にある宿坊に泊まっていたといいます。恐山に行こうと考えている人は、宿坊を利用すると良いかもしれませんね。
Bさんは周りの人と交代で休憩を取りながら11時間近く列に並んでいましたが、閉門時間の18時が迫ってもまだ10人ほどの人が待っていました。
そしてギリギリの時刻になり、Bさんの順番が回ってきました。
しかしBさんの後ろには幼くして亡くなった子供の口寄せをしてもらいに来たというおばあさんがいたため、ここまで頑張ったものの譲ってあげることにしたのです。
「自分は興味本位のようなものだし、切実な人にこの機会を譲ろう。」
するとおばあさんはBさんに感謝し、Bさんはおばあさんに頼んで口寄せに同席させてもらいました。
口寄せの手順としては先にご紹介したAさんの流れと同じですが、幸いBさんが入ったテントのイタコさんは標準語で話していたそうです。
口寄せの内容は
- 遠いところまで会いに来てくれてありがとう。
- 先立つ不幸を許して欲しい
- 私が何かを伝えたいときは夢に現れる
- あなたがこの世へくるときは私が迎えに来る
- 悩みがあってもみんなで力を合わせれば乗り越えられる
こういった差しさわりのない内容のほか、最後に聞きたいことはあるか聞いてくれます。
おばあさんは目に涙を浮かべて、心が癒されたようでした。
Bさんは、恐山のイタコは心理カウンセラーのような役割を果たしていると感じたそうです。
3.イタコさんからのフィードバック
息子さんを不慮の事故で失った主婦のCさんは、それを受け入れられず毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼女の心をなんとか癒せないものかと、夫は彼女を恐山のイタコの元へ連れて行くことにしたそうです。
しかし季節は冬。イタコのテントが出る例大祭はまだまだ先です。
そこで、知り合いのツテで紹介してもらったイタコさんに個人的に見てもらえないか交渉しました。
了解が得られたため、夫はさっそく妻を青森県のイタコの元へと連れて行ったのです。
口寄せをしてもらうと、イタコはこう話したのです。
- 自分が事故で命を落としたことにしばらく気がつかなかった
- 両親をのこして若くして逝ってしまったことが申し訳ない
- 自分は今、祖父母と一緒にいて寂しくないから心配しないでほしい
- 両親には自分の分まで長生きしてほしい
- 小さな妹のことが心配だが、自分が守るから安心してほしい
それを聞くとCさんは泣き崩れ、同時にほっとした表情も見せたのです。
この口寄せも一般的で、誰でも言うことができるといえばそれまでですが、このあとのイタコさんのフィードバックに、Cさんの夫は本物の霊能力があると感じたそうです。
恐山のイタコは口寄せが終わると終了ですが、Cさん夫婦はこのイタコさんと口寄せ後も少し話す時間があったそうで、こんなフィードバックをもらったそうです。
「息子さんは、まだ亡くなって日が浅いですよね? 亡くなったばかりの人には生前の感覚がまだ残っているから、そういう仏様を降ろすと体中が痛く重くなるんです。強烈な眠気も感じてしまうので、口寄せの内容はあまり覚えていないんです。でも、体中が引き裂かれるような痛みから、亡くなったときの状況はわかりました。」
「時が過ぎて息子さんの霊格が上がっていくほど、風や音、普段の生活音を使って息子さんはメッセージを送れるようになっていきます。ご家族が悲しみに伏せていることは望んでおられません。そういう知らせがあったら、笑顔で返してあげてくださいね。」
と。
この言葉で、Cさん夫婦は心が浄化されたような気持ちになり、救われたといいます。
遺族に寄り添い、前を向いて歩いてもらうことも、イタコの仕事といえるのかもしれません。
ここまでイタコの口寄せの方法や体験談をご紹介してきましたが、恐山に行ってみたくなりましたか?
そんな人のために、イタコに口寄せをしてもらうにはいつ、どこにいけばいいのか、下記でご紹介していきますね。
イタコに口寄せしてもらえる時期、費用、場所
1.イタコに口寄せしてもらえる時期
イタコに口寄せをしてもらうためには、基本的には恐山にイタコのテントが出る例大祭の時期を狙って行かなければなりません。
イタコのテントは、いつでも出ているわけではないのです。
チャンスは夏(7月20~24日)と秋(10月上旬の3連休)にある恐山大祭の2回です。
この大祭では、大施餓鬼法要や大般若祈祷が催されるほか、イタコがテントを張って口寄せを行います。
昔は10人ほど軒を連ねていたようですが、今では2人ほどにまで減ってしまっているそうです。
2.イタコの口寄せ料
イタコの口寄せ料は、5,000円が相場になっています。
ちなみに、恐山への入山料は500円になります。開山しているのは5月1日~10月31日の間だけですので注意しましょう。
開山時間は6:00~18:00となっています。
3.イタコのいる恐山への行き方
恐山の最寄り駅は本州最北端となる「下北駅」となります。恐山まではレンタカーを借りて行くか、バスを利用して行くことになります。
ここでは、バスで行く前提でお話を進めていきますね。下北駅から恐山までは、このバスで40分かかります。
ほとんどの乗客の目的地が恐山であるため、バス車内では恐山の歴史をアナウンスで聞くことができます。
恐山は「水子供養」として有名な霊場でもありますから、ときおり水子のための童謡が流されることもあるようです。
バスの乗車チケットの裏面を見てみてください。そこには賽の河原(さいのかわら)に関する「幼児和讃」というタイトルの歌詞が書かれています。
賽の河原とは、三途の川のほとりにある河原のことで、幼くして亡くなった子供たちの魂が集まる場所のことです。
子供たちは親より先に亡くなってしまった不幸を償うためにひたすら石を積み上げるのですが、鬼に崩されてしまうというお話は有名ですね。
恐山にも賽の河原が再現されたエリアが存在しており、実際に石が積まれています。
あの世を再現した道には風車やお菓子が至るところに備えられており、悲しくも美しい光景が広がります。「死者は恐山にいる」と称されるとおりの霊場となっていることがわかるでしょう。
それでいてお土産屋さんは近代的であったり、境内に温泉があったり、宿坊があったりと静粛な中にも一般の人が利用しやすい空間となっています。
ちなみに、入山料の中には温泉への入浴料も含まれているため、お時間がある方は温泉へ入って疲れを癒してみてはいかがでしょうか。
余談ですが、恐山の名物に「霊場アイス」があります。1つ200円で食べられる昔ながらのアイスクリームで、素朴な味わいはどこか懐かしさを感じられるはずですよ。
湯治場ともなっている恐山からは亜硫酸ガスが吹き出ているところもありますので、ろうそくやお線香などは決められた場所でしかつけられないので注意してください。
口寄せは予約できる?
前述のとおり、イタコに口寄せをしてもらうには例大祭の時期に恐山へ行くのが基本的な方法になります。
しかし、どうしても行くことができない場合、青森県にいるイタコに個人的に口寄せしてもらう方法があります。
ツテがあれば、知人に信頼のおけるイタコを紹介してもらうのが最善の方法でしょう。
ツテが全くないという人のために、ここではホームページ上で予約の相談ができるというイタコさんをご紹介します。
そのイタコは、松田広子さん。
かつては大勢いたイタコも修行の厳しさから後継者もおらず、今ではその数は数えるくらいしか存在していないといいます。
最後のイタコと呼ばれる松田広子さんは、1972年生まれとお若いながらイタコ歴20年以上のキャリアをお持ちです。
高校生から弟子入りされ、現在は南部6代目の最年少イタコとして活躍されています。
ただ、直接の連絡先は公開されていないようですので、興味がある方は松田さんのホームページを確認してみてくださいね。
お問合せフォームよりメールを送信すると、折り返し日程調整などの連絡をしてくださるそうです。
予約が殺到してしまうと予約が取れるのが先になってしまうこともあるようですが、まずは問い合わせをしてみるといいでしょう。
電話やメールでの口寄せはできないため青森県へ行く必要はありますが、例大祭以外の日程で口寄せしていただけるのはありがたいことではないでしょうか。
口寄せだけでなく、お払いや占い、人生相談や神事にも携わるイタコですが、現在そのなり手はなかなかいないとされています。
松田さんも弟子を取って育てたいと考えておられるようですが、この伝統的風習が途切れてしまわないよう願うばかりです。
イタコになるための修行とは?
ここまで読まれた方の中には、「自分もイタコになりたい!! 」と思った人もいるかもしれません。
そんな方のために、イタコになるためにはどうしたら良いのか、その条件や修行について調べてみました。
イタコになるための基本的な条件は、霊感を持っていることです。
かつては弱視や盲目の女性がこの霊能力を持っているとされていたのだとか。
しかし、霊能力のない人が厳しい修行をしたからといって不思議な能力を開眼させるのは難しいですよね?
そのため、霊能力の素養を持った女性がお寺で修行を積んだり、現役のイタコに弟子入りして学んだりすることで、イタコとしての技術を身につけています。
修行期間は能力や習得度合いにもよりますが、1年~5年というのが一般的です。
まずは、お祓いの口上や祝詞を覚えることから始めます。
そして東北地方に伝承される蚕の神様「オシラサマ」のお祭りである「オシラアソバセ」の祭文を習得します。
オシラサマは人気ジブリ映画「千と千尋の神隠し」にも、神様として出てきます。
東北地方ではこのオシラサマのお祭りのことを、オシラサマを遊ばせると表現して「オシラアソバセ」と言うそうです。
そののち、イタコとしてのスキルが上がってくると、ダイジュユリ、デンジュ、ユルシ、ウズメソという儀式を行います。
儀式のあと、さらに一週間神社にこもって修行の最終段階を終えると、晴れてイタコとしてデビューすることが叶います。
ただ、霊能力があって修行をした人であっても口寄せができない場合もあるようで、イタコになるのは想像以上に難しいかもしれません。
イタコになるにはそもそも素質が必要なうえ、厳しい修行も必要、それをクリアしてもイタコになれない場合もある、こういった条件をあらためて理解すると、イタコを目指す若い女性がなかなか出てこないのもうなづけます。
しかしながら、青森県「津軽のイタコの習俗」と、秋田県「羽後のイタコの習俗」は国の選択無形民俗文化財になっており、日本の伝統的な風習でもありますから、なんとか次世代へも遺していきたいものですね。
まとめ
死者の口寄せを行う恐山のイタコについてご紹介しましたが、いかがでしたか?
イタコは東北地方に伝わる伝統的な存在として本物に違いありません。
しかし、霊能力が本物かどうかはイタコによって異なるようです。
とはいえ、死者からのメッセージを受け取りたいと願う人が多いことは事実。
恐山のイタコに口寄せしてもらうときには、死者と話せることだけを期待するのではなく、カウンセリングを受ける意味も含まれているのだと理解しておくと、有益な口寄せを体験できるかもしれません。