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大切な人の死と向き合うスピリチュアルケアとは?

スピリチュアルケアとは

あなたは、スピリチュアルケアという言葉を聞いたことがありますか?

占いや霊視のような、一般的に連想されるスピリチュアルとは意味が異なります。

スピリチュアルケアとは、死を間近に感じた患者やその家族に対して行う精神的なサポートのことを言います。

この世では、命あるものは必ずいつか死を迎えます。

頭ではわかっていても、突然やってくるそれは、本人にとっても家族にとっても、簡単に受け入れられるものではありません。

死を身近に感じると、存在意義への自問自答、喪失感、不安、恐怖、孤独感、いらだち、などが生まれます。

それを「スピリチュアルペイン」と言います。

たとえば、死を目の前にした患者さんは、失われる未来に悲観し、生きる意味を見失ってしまうことがあります。

失われるであろう未来をも超えて、さらにその先の意義を見出すことで自分の存在意義を回復するために、「スピリチュアルケア」はあります。

体の痛みではなく、魂の痛みに寄り添うケアが、スピリチュアルケアなのです。

スピリチュアルケアを理解するためには、関係性、時間性、自律性の3つの次元から考える必要があります。

1つでも崩れてしまうと、バランスを保てなくなってしまうからです。

それでは、スピリチュアルケアとはどういうものなのかを詳しく見ていきましょう。




スピリチュアルケアとは何か

どんなに年を取っていても、不治の病を患っていたとしても、人間は『いつか死はやってくるが、今ではない。』と考える生き物です。

余命宣告をされて残された時間が少ないと自覚したとき、死を目の前にして初めて、自分の存在意義というものを自問するようになりますが、考えても考えても答えが出ないため、苦しむことになります。

その出ない答えを探し求める患者の心に寄り添い、QOLを支えようとするのが、スピリチュアルケアです。

QOLとは、Quality Of Lifeの略で直訳すると『生活の質』という意味になります。

つまり、病による痛みや苦痛を抱えながらいかに質の高い生き方をしていくかということを指しています。

病の根治ではなく、生きていくための質を向上させるということです。

スピリチュアルペインとは何か

全ての人が長寿でこの世を去ることができるわけではありません。

若くして重い病にかかったり、理不尽な事故で未来を奪われてしまう方もれば、年老いた親や小さな我が子をのこしてこの世を去る方もいます。

そんなとき

『なぜ自分が死ななければならないのか。』

『自分が生まれてきたことに意味はあったのか。』

『死んだらどうなってしまうのだろうか。』

といった、体の苦しみだけでなく、心の、魂の苦しみを抱くことになります。

この苦しみのことを「スピリチュアルペイン」と呼んでいます。

多くの人がこの世に『ああしておけば良かった』、『こうしてあげていれば良かった。』と、悔いを残して、あるいは、志半ばで去ることになりますが、、このような

スピリチュアルペインに寄り添うのが、スピリチュアルケアです。

スピリチュアルケアの歴史

スピリチュアルケアという概念の発祥は、中世ヨーロッパにあると言われています。

聖地エルサレムへ向かう巡礼者は、途中で病に倒れ、たどりつくことなく息を引き取る者が多かったそうです。

そこで修道士たちは、死にゆく彼らに愛や赦しを説いて看取りました。

巡礼者たちは苦しみから解放され、あの世へ旅立ったのでしょう。

これがスピリチュアルケアの起源だと言われています。

このようなケアが日本で臨床されはじめたのは、緩和ケアが浸透しはじめた1980年代の前半だとされています。

大阪市にある淀川キリスト教病院には、「チャプレン」と呼ばれる病院付きの牧師が配置され、患者とその家族に対してケアを行っていたそうです。

そして現在では、患者に直接接する医療従事者にこそ、スピリチュアルケアの知識の必要性が叫ばれています。

医療従事者は毎日のように死と向き合わなければなりません。

ですが、その都度、心を痛めていては精神が持ちませんから、事務的な対応になってしまうこともあるでしょう。

患者の家族も闘病が長期化すると、介護や看護に疲れてしまい、医師や看護師のちょっとした言葉にも傷ついてしまうことがあります。

医療従事者こそ患者や家族のスピリチュアルペインを理解し寄り添うために、スピリチュアルケアの知識が必要なのです。

スピリチュアルケア3つのステップ

スピリチュアルケアとは、具体的にどんなケアをするのでしょうか?

緩和ケアの領域で、スピリチュアルケアの構造として広く理解されているのが、京都ノートルダム女子大学教授の村田氏が提唱した『村田理論』です。

村田理論では、人間の存在は、時間性、関係性、自律性の3つの次元で考える必要があり、この3つのうち1つでも崩れてしまうと、心の安定を失ってしまうとされています。

つまり、これらのどこにスピリチュアルペインが発生しているのかを理解して、アプローチしていくことでスピリチュアルケアを正しく行うことができます。

それでは、スピリチュアルケアを行う上で大切な3つのステップについてご説明していきます。

(1)心の痛みに耳を傾ける

まずは、3つの次元のどこに痛みを感じているのかに耳を傾けます。

失われゆく時間なのか、のこされる家族のことなのか、自由を奪われる体なのかに着目します。

(2)歩幅を合わせて共に歩む

死を身近に感じている患者は、孤独感・疎外感を感じるものです。

しょせん、他人にはわからないであろう苦しみでも、受け入れて共に歩む姿勢で望みます。

(3)スピリチュアルケア、宗教的ケアをする

たとえば、チャプレンは生きる意味や死後について、キリスト教えにもとづいて信仰上の悩みに答えます。

日本には、キリスト教以外にもさまざまな信仰がありますから、それぞれの世界観に沿ってケアをしていく必要があります。

医療現場で実践されるスピリチュアルケア

このようなステップで進められるスピリチュアルケアですが、元々は聖職者がこの役割を担っていました。

しかし現在では、直接患者と関わる医療従事者(医師や看護師など)にも、浸透しつつあります。

臨床の現場では、具体的にどのように実践されているのでしょうか?

1.【関係性】スピリチュアルペインの解消

関係性に関するスピリチュアルペインを抱えていた患者さんのケースです。

70代のある女性は末期がんの診断をされ、死期が近いことを悟っていました。

ある日、彼女が憂鬱な表情でケースワーカーに語りかけました。

『死ぬまでに何ができるんでしょうね。』

ケースワーカーはこの一言で、この女性は何かやり残したことがあるのだろうと察しました。

『何かできるとしたら、何がしたいですか?』

すると彼女は

『できることなら息子に会って謝りたいんですけれども…なかなかね。』

と重い口を開きました。

彼女には、若い頃に経済的な理由で手放した長男がいました。

その後、第二子は育てることができましたが、長男とはそれ以来、居場所もわからず、会うこともできず、数十年が経っていました。

ケースワーカーは、彼女の親族に相談をして、生き別れた息子を捜しました。

見つかった息子は、初めこそ会うことをためらったそうですが、面会することが叶い、彼女は直接謝ることができたそうです。

そうしてほどなくして、彼女は思い残すことなく息を引き取りました。

2.【時間性】スピリチュアルペインの解消

続いては、時間性のスピリチュアルペインを抱えていた患者さんのケースです。

25歳で余命を宣告された女性は、言葉には出さないけれど、大きな無念を抱えているようでした。

ある日、主治医が回診を行う際、彼女の目が何かを訴えかけていることに気づきました。

主治医が彼女の近くに腰をかけると、彼女が独り言のようにつぶやいたそうです。

『なんで私なんでしょう。まだ25歳、結婚だってしたかった。』

主治医は、涙目で返しました。

『うん、こんなに若くてきれいなお嬢さんなのにね。』

彼女は、ふっと緊張が取れたような表情を見せました。

欲しかったのは

『頑張りましょう』
『きっと良くなってまた恋もできるよ』

のような、その場しのぎの見え透いた励ましではなく、『共感』だったのです。

医療従事者に今求められているのは、患者のスピリチュアルペインに寄り添う姿勢なのではないでしょうか?

3.【自律性】スピリチュアルペインの解消

最後に、自律性のスピリチュアルペインを抱えていた患者さんのケースです。

脳腫瘍を患い、軽度の認知症を持っていた80代の男性は、看護師に質問をしました。

『あの世の使いが行列をなして迎えに来ている。お迎えはもうすぐですか? 』

恐怖を感じている男性に対して看護師は、こう質問を返したそうです。

『お迎えが来る前にしておきたいことはありますか? 』

すると男性は答えました。

『私は四国の出身でね、水がきれいなんですよ。とてもきれいなあのお水をね、できることならもう一度飲みたいね。』

看護師が家族にそれを話すと、四国に住む男性の弟がお見舞いに来た際に、四国の水を持ってきてくれました。

絶飲食の日が多く、思うように飲食もできなかった男性ですが、その日は特別に許可をもらって水を飲んだそうです。

その2週間後、男性は安らかに息を引き取りました。

多くの場合、死期が近づくほどに『できないこと』が増えていきます。

外に出られなくなる、物が食べられなくなる、体が動かせなくなる・・・

人の手助けなく体を自由に動かせないこと、つまり、自律性を失うことは人間にとって大きな苦痛なのです。

まとめ

スピリチュアルケアとは、実は特別なことではなく、患者の痛みに寄り添うことです。

スピリチュアルという名がついているので、霊的なものを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、そうではありません。医療の現場でも実践されている確かなものです。

いつかは誰にも平等に訪れる死ですが、いざそれを目の前にすると、どんな人でも言い知れぬ不安や恐怖に陥るものです。

そんなとき、スピリチュアルペインに対するケアを学んでおけば、大切な人の痛みを和らげてあげることができるかもしれませんよ。

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